~どのようなリスクに備えられるのか~
社会保険制度は、人生で起こりうるさまざまなリスクに備えて、みんなでお金を出し合って助け合う仕組みです。大学生の皆さんも、社会保険は普段の生活に密接に関わっています。たとえば、アルバイト中にケガをしてしまったときや、体調を崩して医療機関を受診するとき、社会保険が大切な役割を果たします。
また、就職すると社会保険の担い手としての責任が重くなります。社会全体を支えるだけでなく、自分の将来に備えて、どのような制度があるのかを理解しておきましょう。
最低限知っておきたい社会保険制度
社会保険制度は、人生の「万が一」に備えるセーフティネットとして機能しています。病気やケガ、失業など個人だけでは対応が困難な問題に対して、社会全体で支え合う制度です。
現在の日本では、公的健康保険制度・公的年金制度・労災保険・雇用保険の4つが、主要な社会保険として運営されています。これらは相互に連携し、日本に住む人々の生活を多角的に支えています。
公的健康保険制度
公的健康保険制度は、病気やケガの治療費をみんなで負担し合う仕組みです。皆さんが病院で3割負担で治療を受けられるのは、この制度があるからです。
主に会社員や公務員などが加入する「健康保険」と、自営業者や学生が加入する「国民健康保険」があります(75歳以上の人は高齢者医療保険制度)。
大学生の皆さんが風邪で病院に行く際、保険証を持参すれば治療費が数千円で済むのも、この制度のおかげです。もし保険がなければ、医療費は全額自己負担となり、風邪の治療でも数万円かかるかもしれません。
公的年金制度
公的年金制度は、老後の生活や障害を負った際の生活を支える制度です。20歳から60歳まで保険料を納めることで、原則として65歳から老齢年金を受け取れます(現行制度では、60歳~75歳の間で受け取るタイミングを選択可能)。
20歳以上の学生も国民年金に加入する義務がありますが、収入が少ない場合は「学生納付特例制度」により、保険料の納付を猶予してもらえます。この制度を利用すれば、学生の間は保険料を払わずに済み、社会人になってから追納できます。
年金制度は老後だけでなく、若いうちに万が一のことがあった場合も支えてくれます。20代で障害を負った場合は障害年金を受け取れるため、生活の基盤となる重要な制度です。
大学生の皆さんは、実際に年金を受け取るのは約40年後になるため、将来の給付までイメージがしづらいかもしれません。しかし、公的年金は老齢や障害、死亡などのリスクに備えるうえで大切な役割を果たしています。
労災保険
労災保険は、仕事中や通勤中にケガをしたり病気になったりした際に、治療費や休業中の生活費を保障する制度です。労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。
労災保険の大きな特徴は、治療費が全額無料になることです。健康保険では3割負担ですが、労災保険では自己負担がありません。
アルバイト先でケガをしてしまった場合や、通勤中に交通事故に遭った場合なども労災保険の対象となります。アルバイトでも1日だけの勤務でも労災保険が適用されるため、安心して働けます。
雇用保険
雇用保険は、失業した際の生活を支えたり、育児や介護で休業する際の経済的支援を行う制度です。雇用保険とは、失業時のサポートや育児・介護中に仕事を辞めずに済むように、経済的な支援を受けられる保険です。
失業した場合には「失業給付」(正式には基本手当)として、それまでの給与の50~80%程度を一定期間受け取れます。給付期間は年齢や雇用保険の加入期間により異なり、90日から360日間支給されます。
さらに、雇用保険に加入している人は、教育訓練給付金を利用できます。教育訓練給付金とは、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されるものです。スキルアップのための資格取得費用の一部を補助してもらえるため、キャリアアップにも活用できます。
大学生の方は、基本的に雇用保険には加入しません。ただし、就職したあとは雇用保険に加入するため、失業時のリスクヘッジとしての活用だけでなく人材価値を高めるための手段としても活用できることを知っておきましょう。
なぜ社会保険制度を理解する必要があるのか
社会保険制度を理解することは、将来の安心につながる重要な知識です。制度を知らなければ、本来受けられるはずの給付を受け損なう可能性があります。
「万が一」のときにどの制度を頼ればよいのかを知る
人生では、病気やケガ、失業や家族の介護など予期しない出来事が起こります。さまざまなリスクに対して、「どの制度が利用できるか」を知っておくことが大切です。
例えば、アルバイト中にケガをした場合は労災保険、病気で長期間働けない場合は健康保険の傷病手当金、会社が倒産して失業した場合は雇用保険の基本手当が生活を助けてくれます。社会保険制度の知識があれば、状況に応じて適切な制度を選択できます。
社会保険制度は、給付を受ける場合は自らが申請しなければなりません。つまり、どんな場合にどんな給付が受けられるのかを知らないと、申請さえもできないことになります。
実際に困った状況になってから制度を調べるのではなく、事前に知識を身につけておくことで、スムーズに手続きを進められるでしょう。
不要な保険に加入する事態を防ぐ
社会保険制度を理解していないと、すでにカバーされている内容の民間保険に重複して加入してしまう可能性があります。例えば、過度に手厚い医療保険へ加入し、必要以上に保険料を支払う事態を防げます。
社会保険制度の内容を把握したうえで、不足している部分のみを民間保険で補うことで、保険料を抑えながら適切な保障を受けられます。これにより、家計の負担を軽減し、他の目的にお金を使えるようになります。
将来の生活設計に直結する知識を得る
社会保険制度は、将来の生活設計を立てるうえで欠かせない要素です。老後にいくらの年金が受け取れるか、育児休業中にどの程度の給付があるかなどを知ることで、具体的なライフプランを立てられます。
日本の社会保険制度は、他国と比較しても手厚い特徴があります。法律に基づいて保険料を納めているのですから、「どの保険が、どのような役割を果たしているのか」を理解しましょう。
自分の働き方や将来設計に与える影響を把握し、適切に活用することで、自分や家族の生活を守れます。
まとめ
社会保険制度は、私たちの生活を支える重要なセーフティネットです。健康保険・年金・労災保険・雇用保険のそれぞれが、異なるリスクに対して保障を提供しています。
大学生の皆さんも、アルバイトを始めれば社会保険に関わる機会が増えてきます。制度の基本を理解し、どのような場面でどの制度を利用できるかを知っておくことで、安心して社会人としてのスタートを切れます。
また、社会保険制度は時代とともに変化していくため、定期的に最新の情報をチェックすることも大切です。将来に備えて、今のうちから社会保険制度への理解を深めておきましょう。

